オットーサイクル (英: Otto cycle) は火花点火機関(ガソリンエンジン・ガスエンジン)の理論サイクル(空気標準サイクル)であり、定容サイクルまたは、等容サイクルとよばれる。石炭ガスを用いた最初の火花点火機関を作ったのはフランスのルノアールであるが、それをもとに最初の火炎点火式などの実用的なガス機関を製作したドイツのニコラウス・アウグスト・オットーにちなんで、オットーサイクルとよばれている。

サイクル

オットーサイクルは、火花点火機関の実際のサイクルを、下表 1 のような比熱一定の理想気体(空気)の可逆なクローズドサイクル(空気標準サイクル)で置き換えたものと考えることができる。

オットーサイクルのp-V 線図および T-S 線図を図 1、2 に示す。また、吸気状態を V1、p1、T1、S1 としたときの、サイクル上の各点の状態量を下表 2 に示す。

熱量、仕事、熱効率

上で求めた各点の状態量を用いて、1 サイクルあたりの加熱量、冷却量、仕事および熱効率、平均有効圧力は下記のように求まる。

  • シリンダー内空気質量: m = P 1 V 1 R T 1 , R = c p c v = 287.2   J / ( k g K ) {\displaystyle m={\frac {P_{1}V_{1}}{RT_{1}}},\quad R=c_{p}-c_{v}=287.2{~{\rm {J/(kgK)}}}}
  • 加熱量: Q 1 = m c v ( T 3 T 2 ) = m c v T 1 ( α 1 ) ϵ κ 1 {\displaystyle Q_{1}=mc_{v}(T_{3}-T_{2})=mc_{v}T_{1}(\alpha -1)\epsilon ^{\kappa -1}}
  • 冷却量: Q 2 = m c v ( T 4 T 1 ) = m c v T 1 ( α 1 ) {\displaystyle Q_{2}=mc_{v}(T_{4}-T_{1})=mc_{v}T_{1}(\alpha -1)}
  • 仕事: W = Q 1 Q 2 = m c v T 1 ( α 1 ) ( ϵ κ 1 1 ) {\displaystyle W=Q_{1}-Q_{2}=mc_{v}T_{1}(\alpha -1)(\epsilon ^{\kappa -1}-1)}
  • 熱効率: η = 1 Q 2 Q 1 = 1 1 ϵ κ 1 {\displaystyle \eta =1-{\frac {Q_{2}}{Q_{1}}}=1-{\frac {1}{\epsilon ^{\kappa -1}}}}
  • 平均有効圧力: p m = W V 1 V 2 = p 1 ( α 1 ) ( ϵ κ 1 1 ) ϵ ( κ 1 ) ( ϵ 1 ) {\displaystyle p_{m}={\frac {W}{V_{1}-V_{2}}}=p_{1}{\frac {(\alpha -1)(\epsilon ^{\kappa -1}-1)\epsilon }{(\kappa -1)(\epsilon -1)}}}

この結果より、以下のことがわかる。

  1. 圧縮比 ε を大きく(高く)すれば熱効率が大きく向上する。
  2. 絞り弁で吸気圧力 p1 を変えることにより平均有効圧力を変えて、負荷に応じた調速を行うことができる(ガソリンエンジンでは空燃比はほぼ一定であり、圧力比 α を調速に用いることはできない)。ただし、これには絞りに伴う損失が大きくなる欠点がある。

実際のガソリン機関サイクルとの相違

上の説明は、空気標準サイクルを基にしている。諸パラメーターの影響を予測するには有効であるが、定量的には大きく異なる。これを実際のガソリンエンジンのサイクルに近づけるには以下のような補正を要する。

  1. (比熱の相違)実際の作業物質は圧縮時は空気・燃料の混合ガスであり、燃焼後は燃焼ガスが作業物質となるので、熱力学的性質が常温の空気とは大きく異なる。特に比熱が空気より大きくなることで、作業物質の温度と圧力が低くなる。
  2. (熱解離の影響)高温の条件ではCO2、H2O をはじめ多くの成分が解離する。これは供給熱量の減少、もしくは見かけ上、比熱が大きくなることと等価であり、前記事項と同様に作業物質の温度・圧力低下の原因となり、出力および熱効率が大きく低下する。
  3. (残留ガスの影響)排気行程で燃焼ガスをすべて排出できないので、次のサイクルの混合気に混入する。これにより吸気の量、温度、圧力が影響を受ける。
  4. (分子数の変化)燃焼により作業物質の分子数が増減する。成分自体が変わるので一概には言えないが、一般に分子数の増加は圧力の増加をもたらす。
  5. (燃焼時間)燃焼は発火点から未燃部分に伝播するため時間を要し、等積加熱とはならない。このため最大圧力も低く、衝撃も小さくなるので実用上は好都合となる。
  6. (壁面への放熱)シリンダ、シリンダヘッド、ピストンへの対流・放射による伝熱が生じる。
  7. (ポンプ損失)通常、ガソリン機関は絞り運転を行うので、吸気圧力は外気より大幅に低く、排気圧力は高いため、これに伴うポンプ損失が大きくなる(特に軽負荷時)。

参考文献

主な執筆者、編者の順。

  • 柘植盛男『機械熱力学』朝倉書店、1967年、頁。 NCID BN03325652。[[[Wikipedia:出典を明記する#出典の示し方|要ページ番号]]][[Category:出典のページ番号が要望されている記事]]頁&rft.pub=[[朝倉書店]]&rft_id=info:ncid/BN03325652&rfr_id=info:sid/ja.wikipedia.org:オットーサイクル"> 第3版あり。
  • 谷下市松『工学基礎熱力学』裳華房、1971年、頁。 NCID BN03464557。[[[Wikipedia:出典を明記する#出典の示し方|要ページ番号]]][[Category:出典のページ番号が要望されている記事]]頁&rft.pub=[[裳華房]]&rft_id=info:ncid/BN03464557&rfr_id=info:sid/ja.wikipedia.org:オットーサイクル"> SI単位による全訂第27版あり。
  • 富塚清『内燃機関の歴史』三栄書房、1969年、頁。 NCID BN03808838。[[[Wikipedia:出典を明記する#出典の示し方|要ページ番号]]][[Category:出典のページ番号が要望されている記事]]頁&rft.pub=[[三栄|三栄書房]]&rft_id=info:ncid/BN03808838&rfr_id=info:sid/ja.wikipedia.org:オットーサイクル"> 。改訂版、新改訂版あり。
  • 長尾不二夫『内燃機関講義』養賢堂、1969年、頁。 NCID BN00612396。[[[Wikipedia:出典を明記する#出典の示し方|要ページ番号]]][[Category:出典のページ番号が要望されている記事]]頁&rft.pub=[[養賢堂 (出版社)|養賢堂]]&rft_id=info:ncid/BN00612396&rfr_id=info:sid/ja.wikipedia.org:オットーサイクル"> 第3次改著の第33版あり。
  • 古濱庄一 著、内燃機関編集委員会 編『内燃機関』東京電機大学出版局、2011年、頁。 NCID BB07638451。[[[Wikipedia:出典を明記する#出典の示し方|要ページ番号]]][[Category:出典のページ番号が要望されている記事]]頁&rft.pub=東京電機大学出版局&rft_id=info:ncid/BB07638451&rfr_id=info:sid/ja.wikipedia.org:オットーサイクル"> C3053

脚注

関連項目

  • ガソリンエンジン
  • 火花点火内燃機関
  • 内燃機関
  • 熱力学サイクル
  • 4ストローク機関
  • ロータリーエンジン

オットーサイクルとは?|ガソリンエンジンの理論サイクルとその熱効率 高校物理からはじめる工学部の物理学

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